2月11日に建国したわけじゃない
他の国々にも建国の記念日はありますが、我が国の建国記念の特徴は科学的・歴史的な信憑性が疑わしいことにあります。それもそのはず、2月11日という日は初代天皇の神武天皇が即位した日という事になっていますが、その根拠は日本書紀の「辛酉年春正月庚辰朔 天皇即帝位於橿原宮是歳爲天皇元年」という記述です。
我が国には西暦のような古代から一貫した2000年を超える暦はなく、数十年単位の年号が断続的にあるだけで最古のものが大化の改新(645年)の時に用いられた大化です。その時の天皇は第36代の孝徳天皇ですから、それ以前の天皇については信頼性の薄い私年号や古代中国の年号や干支などと照らし合わせてさかのぼっていくことになります。
この手順で調べた結果、前述の日本書紀の記述は紀元前660年の旧暦1月1日であるとされました。これを現在の暦になおすと1月29日になりましたが、いろいろ不都合があり再度定めたのが2月11日という具合で、明治6年の話です。
政府の不都合により歴史上の重要な日が変わってしまうのですから、そこに科学的・歴史的信憑性を求めるのは無理というものです。
百歩譲って日付については不問としたとして、紀元前660年というのはどうでしょう。詳しく述べると長くなりますので端折りますが、これが真実なら神武天皇は127歳まで存命だったことになりますし、その後も100歳越えの天皇が軒並み続きます。いくらなんでもこれは現実味が無いと思います。ちなみに初代から9代までは、神話上の人物で実在が疑われています。第10代の崇神天皇が初めて実在の可能性が見込める天皇であり、ほぼ確実に実在が確かめられている最も古い天皇は第15代の応神天皇と言われています(八幡さまとしても有名ですね)。
我が国は世界最古の国家?
さて、建国記念の日の由来について述べてきましたが、最近私が懸念しているのが日本は世界最古の国家であるという主張です。ネット上では以下に示す対照年表の画像が出回っています。

(クリックすると大きな画像をご覧になれます)
この年表の一番下が我が国ということになっていますが、他のどの国よりも長く続いていてるように見えます。
しかし、これをもって我が国は世界最古の国家だという主張は一種のまやかしです。この対照年表を論じるためには「国家とは何か」という点をはっきりさせなければなりません。
我が国に話を限ると、日本の国土はどこからどこまでなのかという点をまず整理しなければなりません。おおざっぱに北海道・本州・四国・九州の4島ということにしてみましょう。この領域が初めて同一政府の元に統治されたのは明治に入ってからです。それ以前の江戸時代では、北海道の大部分は中央政府の統治下になくアイヌ民族の支配下にあったといえます。さらに遡ると、坂上田村麻呂がアテルイの軍を破って東北地方を制圧できたのが8世紀頃ですから、それ以前は西日本しか統治下に収めていなかったことになります。
対照年表上の紀元前2世紀頃から4世紀頃までは(小国分立)と記載されているとおり、その頃の日本は小さな国が割拠していた時代です。有名どころでは女王卑弥呼が治めた邪馬台国などもこの頃ですね。とても日本という統一国家ではありません。
いわゆるヤマト政権が成立したのは4世紀頃と考えられています。九州から近畿あたりまでを支配下に置いたその政権の王が現在に続く天皇家の始まりと考えられますが、そうなると紀元前660年という話さえも大変誇張されたものということになりますね。
天皇家は世界最古の現存する王家
こうした、歴史上の断片的な要素を都合良く解釈して2000年以上も続く国家だという話は、単なる自己満足に過ぎません。誇るならもっと揺るぎない事実をもって誇るべきです。
その揺るぎない事実とは、我が国の皇室が1600年近く続く現存する世界最古の王家・王室であるという事実です。
実在がほぼ確実な最古の天皇である応神天皇の即位がいつだったのかは、はっきりしませんがおそらく西暦270年頃から390年頃のどこかと考えられます。そこから数えれば1600年を超えることになりますが、第26代継体天皇の出自がはっきりしないため、そこで血統が途切れている可能性があります。この点を厳しく評価しても継体天皇の即位は507年頃と考えられるため、そこから現在に至るまで1500年の長きにわたるわけです。
この世界最古の王室という点は、世界の王室や貴族の世界ではとても重要な要素で、2012年に行われた英国エリザベス女王の即位60周年での今上天皇への対応をみても明らかです。外国人からみて、世界最古の王室を戴くNIPPONという島国は、神話の世界から続いているような印象があるかもしれません。
我が国の建国がいつだったのか、それは謎に包まれており建国記念の日の根拠もあやしいものであることは前述の通りですが、それは決してデタラメな話だということではなく、神話と渾然一体になるほど自然に私たちの祖先と国土から生まれ育ってきた国だということなのであって、妙なこじつけで他の国や民族と比べて悦に入る必要はないのです。
そんなつまらない国粋主義は、視野を狭め他の民族や文化に対する敬意を失わせる危険をはらんでいます。殊更に愛国を連呼し旭日旗を掲げて練り歩く面々には特に指摘しておきたいと思います(特に十六条旭日旗は旧海軍の軍艦旗であって、現在は自衛艦旗なのでつまなぬことに使わないでいただきたい!)。