先日、今回の参議院選挙での争点について北海道新聞から取材を受けました。なんで私に?とは思いましたが、取材の内容が安全保障関連法制(安保関連法)についてだったので、元海上自衛官の市議会議員というヤツがネタとしてちょうどよかったのかもしれません。
記事そのものについては、7月6日の朝刊に載っていますのでそちらをご覧頂きたく思いますが、記事中では安保法案について賛成の立場でコメントが載っていました。
記事を読んだ印象としては、こんなこと話したかな?と思う点もありますが、そもそも短いコメントにまとめなくてはならない記事中で話した真意を間違いなく捉えて欲しいというのも無理があります。そこで、記事について少々補足をしたいと思います。
「米軍は実戦経験のない自衛隊が前線まで助けに来ることを期待していない」
記者の問いかけは、集団的自衛権容認と駆けつけ警護を混同したところがありましたので、分けて答えました。
ひとくちに米軍と一緒に行動する、言ってもPKFなどでの活動もあれば、同盟国としての軍事行動もあり区別して考える必要があります。記者は「駆けつけ警護が可能になると自衛隊のリスクが増す」と言っていましたので「リスクの増加はない」と答えました。ただし、リスクがないという意味ではなく元々リスクはあって今回の法制によってそれが増えたりはしないという意味です。
なぜかというと、法制度の穴があって安全保障上に問題がある、といっても我が国の法制度を細かく研究してその隙を突いてくるには、それなりの組織力があってはじめてできることで、いうなれば大国の正規軍があてはまります。
国連平和維持活動が行われているような地域で、そんな正規軍が敵対行動をとる状況はちょっと考えにくく、小規模なゲリラグループや部族集団などが我が国の法制度を熟視して攻撃を加えてくることは、いささか想定しづらいものがあります。それらの武装グループから見て、自衛隊の姿は以前から何も変わるものではなく、敵だと思えば攻撃を検討するでしょうし、味方や中立の第三者と思えばそれなりの対応をとるでしょう。これまではリスクに対して受け身だったものが駆けつけ警護が可能になる分、リスクを選べるようにもなるのでかえって安全を確保しやすくなるかもしれません。
そもそも駆けつけ警護は、安保関連法のうちの国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(国際平和協力法)によって定められるもので、国連の平和維持活動における武器使用についてのことなので、大規模な戦闘は考えにくく、また駆けつけ警護の対象も米軍とは限らず、中国軍やロシア軍というケースも理論上はあり得ます。ただし、現在想定している主な対象は同じ自衛隊部隊や現地で活動している邦人の文民や民間人などで、元々自衛能力のある各国の派遣軍部隊は想定されていません。
もし攻撃を受けている米軍の元へ駆けつけ警護に向かうケースを想定するとしたら、小規模で装備も少ない、または非武装の米軍部隊が多数の武装したゲリラやテロリストなどに攻撃されている場合などでしょうか。いずれにしても考えにくいパターンになります。
次に駆けつけ警護の話ではなく、集団的自衛権を行使して米軍を助けに行くというケースですが、そもそも論として集団的自衛権は自衛権という権利であって義務ではありませんので、米軍は要請することはできますが応ずるかどうかはこちらの判断になります。
さらにコメントにあったとおり、米軍が戦争と呼べるほどの大規模な戦闘を行っている場合ですが、まともな軍の指揮官ならいくら練度か高くても実戦経験のない自衛隊に、自らの部隊の脇を固めて欲しいとは考えないでしょう。戦闘では戦線を構成する部隊のうち弱いところから崩壊してしまうものです。両翼を任せて不安になるくらいなら単独で戦った方がマシだと考えるでしょう。
「日米同盟を強固にするために自衛隊が米軍を守る姿勢を示すことは重要」
自衛隊が米軍を守る姿勢を示すことは重要・・・、という話をした覚えはないのですが、そもそも軍事同盟とは集団的自衛権のひとつの姿であるので、今さら容認とか持っていても行使せずとか言われてもちょっとな、という感じです。
集団的自衛権の行使は憲法違反だという意見がありますが、その日本国憲法の前文と国連憲章は整合性があり、そして国連憲章では全ての国家に個別的自衛権と集団的自衛権を認めています。それどころか、集団的自衛権を加盟各国が行使することが国連による平和維持の前提となっています。なので、これを否定すること自体が憲法違反であると思います。以前の記事(我が国の集団的自衛権というお題目は勘違いの円舞)で詳しく書いていますのでそちらも参照して下さい。
私としては、我が国が国連による平和維持を国是としている以上、集団的自衛権の行使は当然であり、また世界の恒久平和を目指すための前提として我が国の安全と生存を担保しなければならず、そのための重要な関係のひとつが日米同盟であると考えるので、日米同盟の堅持は大切だ、という話をしたと思うのですが、何か言い方が下手だったのでしょうね。
「自衛官も戦争はしたくない」
したくないというよりも、武器の本当の破壊力を知る自衛官だからこそ慎重である、任務とあればやるが、それだけによくよく考えて扱って欲しい、という話をしました。戦争なんてやらずに済むに越したことはありません。戦争はいけない、なんて当たり前のことなのです。
「不用意な武力衝突を防ぐため、抑止力を高める法整備と、経済的な結びつきの強化は必要だ」
法整備の部分は、過去のブログ記事で繰り返し述べていますのでここでは省略しますが、経済的な結びつきの強化、の部分について説明します。
このままの文章の流れだと、米国との結びつきの強化ともとれるような曖昧さがありますが、私が答えたのはそれほど友好的ではない、または敵対的な国家との結びつきのことです。
ジエイムズ・F・ダニガンの名著「新・戦争のテクノロジー」に平和を保つゆとりはあるか、という問いかけがあります。平和は戦争より安くつくが、考えられているほど安くはない。そして、平和は戦争よりも国家の経済を破綻させることがある。とも述べています。
平和を維持したければ、経済を良好に保つことが必要であり、経済が破綻し行き詰まると、これを打開しようとして次第に戦争に傾きます。まさに、平和を買い支えていかなければならないのです。
さらにいえば、これを自国のみならず世界各国にやってもらう必要があります。歴史をひもとくと、経済格差とそれを埋める手段が戦争しか見当たらないときに、戦争の危機が高まります。自国の経済力が低下し友好的ではない近隣の国が高い経済成長をしていると、自信喪失から険悪な関係になり、ナショナリズムが刺激されやすくなります。
しかし互いに経済的な結びつきが大きいと、利害関係が複雑になり武力による解決は損失の方が大きくなります。互いの感情が悪化しても、話し合いで解決するしか道はなくなるのです。商売人はケンカしないということです。
ですから、安全保障を考えるときに、もっとも重要な要素は経済なのです。戦争を回避したければ、自国のみならず互いに平和を買い支えていかなくてはならないのです。
最後に、今回の参院選についですが、安保関連法については野党は争点にしていますが、世間はそれほど関心があるように感じられません。どちらかというと経済問題の方に関心が強いように見えますが、先に述べたように経済問題は安全保障にも大きな影響をおよぼすので、大きな視点で各政党・各候補者の主張に耳を傾けてみるのがよいと思います。
皆さんの投じる一票が、さざ波が集まってついには浜辺の姿を変えるように、ほんの少しずつ政治を動かし大きな流れになるのです。
2016年07月10日

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